北京のセールスマン [読書]
アーサー・ミラーが、去る2月10日に亡くなった。89歳だった。
彼が1983年春に北京で「セールスマンの死」を上演した時の日記
をもとにして書いた「北京のセールスマン」を読みかえした。
文化大革命のすさまじい荒波をくぐり抜けてきた中国人(俳優)達と、
一人のアメリカ人との"魂の交流の旅"の記録である。
本の結び近く、いよいよ本番前の様子を彼はこう書いている。
楽屋を訪ねると、俳優たちはメイキャップの真っ最中だ。それを見ていて、
芝居に生きる人間はどこも同じだという思いを新たにする。俳優は初めは
お手あげの状態でこっちに頼りきっているが、次第に成長して力を感じる
ようになり、しばしば演出家や作者に反抗し、最後には大人になってまる
で自分で自分を作りだしたかのように、世界に対決する。かつては親のよ
うに私を慕ったのに、今では殊更に大きなジェスチュアで親愛の情を表す
ほかない。もはや指導者を必要としないからだ。大事なのは結髪であり、
眉やネクタイや指の爪や、歯である。今や私は子供の頃の彼らにピアノの
弾き方を教えた親切な叔母さんといったところで、会えば大喜びするが、
去れば去ったで大喜びなのである。
まあ、それでいいのだ。(文中より引用)
一人の偉大な芸術家が、またいなくなってしまった。
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